フィリピン社会 ~民衆主役の社会発展の模索~
開催日時
2019年9月13日(金)/18:30~20:30
会場等
福岡市科学館 6F サイエンスホール(外部リンク)
対談者
藤原 帰一氏(東京大学未来ビジョン研究センター長・法学政治学研究科教授)
コーディネーター
清水 展氏(関西大学特任教授、京都大学名誉教授)

 フィリピン大学で第三世界研究所を創設し、新興独立国が抱える問題や対策などの研究を行ってきたランドルフ・ダビッド氏が、フィリピンにおけるピープル・パワー革命(1986年)と、その後の政権を中心としたフィリピン社会について熱く語りました。

藤原 帰一 (東京大学未来ビジョン研究センター長・法学政治学研究科教授 )
清水 展 ( 関西大学特任教授・京都大学名誉教授 )

第1部:基調講演

歴史、文化、そして政治 独自の経験が生み出したピープル・パワー

 フィリピンの社会学者で、報道番組の司会兼制作も務めたダビッド氏。今回はフィリピンの政治、文化、歴史、そしてフィリピン社会を形成してきた重要な出来事について講演を行いました。

 冒頭にダビッド氏は「今、フィリピンで何が起こっているのか」という疑問を提起。これに対し簡単な答えはないとしながらも、フィリピン独自の経験について解説を始めました。

 まず、フィリピンの文化・歴史―民族コミュニティがバラバラで、スペイン支配下でも地域の対立を超えられなかったこと、その後、米国支配下で民主主義が植え付けられた際も土地所有者の少数支配が残っていたことなどについて説明がありました。これらの背景に様々な要因も加わり、「フィリピン人は長い間国を支配してきたエリートに怒りを感じ、庶民から指導者が生まれ権力につくことを望むようになった」といいます。

 続いてダビッド氏は、フィリピンで成功した二つの政治家のタイプについて触れました。一つはマルコス大統領・ドゥテルテ大統領などの『強権的指導者』、もう一つはアキノ大統領などの『道徳的指導者』で、フィリピン人が惹きつけられたのは常に前者でした。そして、近年の政権―あらゆる権力を集中させたマルコス政権、道徳的な人柄で信任を受けたアキノ政権、社会や過去の指導者に怒りを抱く国民からカリスマ的支持を得たドゥテルテ政権について解説がありました。

 中でもダビッド氏は、反対派のニノイ・アキノ暗殺後、国民がその未亡人コー リー・アキノを推してマルコス政権転覆に至った『ピープル・パワー革命』について熱く語りました。ピープル・パワーの概念は、権威主義的政権を平和裏に打倒するための世界的枠組となっており、今もフィリピン人の政治的意識の一部として残っているといいます。氏は、「法と文化のギャップ、近代憲法と国民的忠誠心のギャップを埋める正しい公式を見つけるまで、民衆主役の社会発展の模索は終わらない。それは今の世代、次の世代へと、課題として受け継がれていくだろう」と講演を締めくくりました。

 自身や自身と同じく活躍した亡妻カリーナ氏の経験も巧みに交えながら、フィリピン社会について講演したダビッド氏。その抑揚ある語り口は報道番組のホスト役を彷彿とさせ、観客を強く惹きつけていました。

第2部:対談

フィリピンが直面する課題は フィリピンだけのものではない

 第2部では、まず、当時のフィリピンにおいて、大学教授がテレビに出演し、英語が通例であった時事番組で庶民の言語であるタガログ語を使用するなど、いかにダビッド氏が国民や業界に影響を与える革新的取組をしたかということが語られました。続いて、『ピープル・パワー革命』では新しい代替政府を形作るまでには至らなかったという問題から、今日世界中に広がるポピュリズム、SNSが急激に政治風景を変えているといった話題まで、ジャズのセッションのようなテンポ良い対談が展開していきました。

 観客からは「フィリピンを楽しむポイント」や「フィリピンの教育」に関する質問も投げかけられ、時に笑いを交えながら回答したダビッド氏。より一層フィリピンや世界の政治について知ることができ、興味が掻き立てられたひとときとなりました。

対談の様子

2019年 市民フォーラムレポート