- 開催日時
- 2017年9月23日(土)/16:00~17:30
- 会場等
- イムズ 9F イムズホール(外部リンク)
カンボジアには、チャパイという弦楽器を弾きながら、様々な物語やできごと、感情を謳い上げる語り物音楽があります。コン・ナイ氏は現代にこの貴重な音楽を伝える数少ない伝承者の一人です。氏はしばしば「カンボジアのレイ・チャールズ」と称されますが、それは過酷な経験に裏打ちされた氏の音楽が、ブルーズやソウル音楽のように、聴く者の心に深く響くからです。このフォーラムでは、コン・ナイ氏の音楽を通して、カンボジアの豊かな精神世界を味わいます。
第1部:対談
音楽とクメール美術にみるカンボジアの独特で豊かな芸術文化
寺田氏は、2005年、カンボジアを訪れた際に「カンボジアのレイ・チャールズ」と称されるコン・ナイ氏の新聞記事を目にしてすぐさま会いにいき、素晴らしい表現力に感激したエピソードを披露。その後、カンボジア音楽について写真や音を交えながら解説しました。
冒頭に人口の9割を占めるクメール人をはじめ、ベトナム人、中国人、21の少数民族が住むカンボジアの多様性を紹介。音楽は宮廷音楽や民俗音楽、宗教音楽から成る伝統音楽と、西洋から入ったポピュラー音楽に分類できると説明しました。宮廷音楽は文字通り宮廷で発達したもので、舞踊、影絵芝居、仮面劇等があると話し、民俗音楽には人生儀礼、精霊儀礼等があり、コン・ナイ氏の語り物もこれに属すると紹介。国の独特な文化と風習、そこで演奏される楽器と音色が披露されると、聴衆は興味深く耳を傾けていました。寺田氏は約200万人の国民が虐殺されたポル・ポト政権時代へと話を進め、9割の音楽家や舞踊家が命を落とした悲劇を語った後、コン・ナイ氏が生き延びて音楽を続けていることは奇跡だと喜び、今回の受賞を称えました。
デモンストレーションでは寺内氏、寺田氏とコン・ナイ氏の対談が行われ、語り物に使うチャパイという楽器や韻を踏み即興で作る歌詞についてコン・ナイ氏自ら解説。語り物の奥深さと氏の明るいキャラクターに魅了されて笑いが起こる一方、ポル・ポト政権の利点を歌わされた暗い過去を話し始めると会場は静まり返りました。
後半は、ヒンドゥー文化の影響を受けたクメール美術について、久保氏が解説しました。語り物で演奏される『リアムケー』はインドの一大叙事詩『ラーマーヤナ』を基にしたものであり、アンコールワット遺跡などの彫刻もこの叙事詩の影響を受けていると紹介。詩の内容は、ヴィシュヌ神の化身であるラーマ王が妻とともに国を追われて島に送られ、そこで残虐な魔物たちと戦い、再び都へ戻っていく冒険物語。話は時代とともに変化しながら語り継がれ、またカンボジアなど東南アジアに伝来。その土地にあう形に変異していき、各シーンは遺跡の彫刻や絵画になっていると紹介しました。
日本ではまだ、なじみの薄いカンボジアの音楽とクメール美術、物語の詳細を聞き、聴衆はコン・ナイ氏の語り物への関心、理解がより深まった様子でした。
第2部:コン・ナイ氏によるライブ演奏
第2部はコン・ナイ氏のコンサートが行われました。最初は久保氏が解説した『リアムケー』の一節。コン・ナイ氏は王位を辞したリアムが宮廷から森へ去っていくシーンを朗々と歌い上げ、聴衆は韻を踏んだ詩とチャパイの素朴な音色に耳を澄ましていました。その後、結婚する娘を送り出す母親の気持ちを歌った『カット・カン・スラー』、視力を失ったコン・ナイ氏の境遇を詩にした『目の見えない者の人生』と続き、この曲は今回のために新しく作った歌だと紹介。最後は陽気に盛り上がる『ラムリアウ』に聴衆から手拍子が送られ、会場が一体となった楽しいステージとなりました。寺内氏は復興目覚ましいカンボジアの現況を話し、伝統音楽が若い人々に継承されて欲しいとの願いを込めてフォーラムを締めくくりました。