ガンディーとインド、そして世界
開催日時
2015年9月19日(土)/16:30~18:30(開場/15:30)
会場等
エルガーラ 大ホール(外部リンク)
パネリスト
田辺明生氏(京都大学アジア・アフリカ地域研究研究科教授)
コーディネーター
脇村孝平氏(大阪市立大学大学院経済学研究科教授)
参加者
200人

 著しい経済成長のみならず「世界最大の民主主義国」として注目されているインド。言語、民族、宗教、カーストなど多様性を抱えながらも大国としての存在を維持し、その不思議な魅力は私たちを魅了し続けています。インド独立運動の父として知られるマハトマ・ガンディーの生涯を、グハ氏が熱く語りました。

コーディネーターの脇村氏
ディスカッションの様子
パネリストの田辺氏

第1部:ラーマチャンドラ・グハ氏による基調講演

“4つの職業で革新的な取り組みを実践したガンディー”

 環境歴史家としてキャリアを始めた私は、環境運動についての研究をする中でガンディーという人物に興味を持つようになりました。それは、1970年代から80年代にかけてヒマラヤで行われたチプコ運動で、農民たちが木に抱き付いて森林伐採に反対するという、ガンディーの非暴力抵抗の思想に強く影響された運動でした。

 ガンディーの素晴らしさは、1.独立運動家 2.社会改革者 3.宗教的多元主義者 4.預言者・未来主義者という4つの職業を同時にこなし、それぞれの中で革新的な取り組みを実践した点にあります。

 イギリスからの独立を勝ち取る大規模な民族運動においては、他の植民地に見られるような武装闘争ではなく、非暴力抵抗運動を貫きました。中でも有名なのが、1930年の塩の行進です。

 社会改革者としては、不可触民や女性に対する差別をなくす活動をしました。例えば、不可触民が寺院への出入りを禁止されていることに抵抗し、上層・中層・低層のカーストが一緒に寺院に入るという革命的な行動を起こしたり、非暴力で独立を勝ち取るために女性を行進に参加させたりしました。

 ガンディーの生まれはヒンドゥーですが、キリスト教の友人も多く、イスラム教、キリスト教、仏教など多宗教の人たちが互いの宗教を尊重し、融和的に暮らす世界を目指しました。アシュラムという道場をつくり、さまざまな宗教の歌を歌ったり書物を読んだりする活動を行い、多宗教の融和に捧げた生涯でもありました。

 さらに彼は未来を預言しました。1928年に行ったスピーチの中で「インドで西洋型の工業化を行えば、エネルギーを使い資源を枯渇させる」と警告し、1930年代には有機農業の促進を擁護しています。

 当時、このようなガンディーの思想は常に批判され、攻撃を受けました。今日では多くの偉大な人々がガンディーを尊敬し称賛していますが、一方では彼を忌み嫌い、中傷する人がたくさんいるのも事実です。ガンディーほど世界中で物議を醸し、議論の的となる人物は、これまでもこれからもいないでしょう。

 私見では、ガンディーは非常に素晴らしいインド人思想家であり、道徳的な預言者で、ブッダ以降、最も偉大な思想家だと思っています。今日のインドでも、ガンディーを否定し忌み嫌う人がいますが、他国の方々がガンディーの素晴らしさを再発見してくれることでしょう。

第2部:パネルディスカッション

 脇村孝平氏(京都大学教授)をコーディネーターにお迎えし、田辺明生氏(京都大学教授)とともにパネルディスカッションを行いました。

“ガンディーの思想や運動は現在の日本にも大きな意義”

 基調講演を受けて田辺明生氏はグハ氏に対し「ガンディーの多面的な魅力と、その思想運動の世界史的な重要性を、極めて明晰に論じた」と称えました。さらに、「ガンディーは全ての活動を通じて当時の支配的枠組みを問い直し、オルタナティブを探求したのではないか」と論じ、「現在の日本も、現実の多面性を深く認識し、多様な立場に共感を持って理解した上で、よき潜在的可能性を実践的に現実化しようとする姿勢を持つことが肝要だ」と議論を展開しました。

 後半は会場からの質問も踏まえ、脇村孝平氏が「ガンディーは南アフリカの経験の中で、どんな人物から影響を受けたのか」と質問。グハ氏は、「ユダヤ教やキリスト教の女性と友達になるなど、南アフリカでの生活や人生そのものが大学であった」と答えました。現代のインドとガンディーの関係については、「ガンディーが全て正しいという考えを持ってはいけない。非暴力や宗教的な多元性、環境の持続可能性についての考えは役に立つが、男女平等という点ではガンディーの考えを超えなければならない」と主張しました。

2015年 市民フォーラムレポート